『えいやっ!っと飛び出すあの一瞬を愛してる。』 - 小山田咲子
本について初めて書きます。
『えいやっ!っと飛び出すあの一瞬を愛してる。』は小山田咲子さんのブログを書籍化した本の題名です。
ブログ本とかエッセイに分類される本でしょうか。
初めて読んだのは大学2年の夏休み。
1週間のうちに小説一つ読み終わらない僕ですが、この本は帰省中の3日くらいのあいだにニヤニヤしたり、ハッとさせられたり、時には涙したりしながら読み終えました。
以来時々本棚から取り出しては、大好きな所を何度も読み返しています。
こんなに好きになった本はこの本が初めてでした。
僕のバイブルです。
特に若い人に凄く響く本だと思います。
そして沢山の勇気を貰えます。
ここまで言うのには三つくらい理由があります。
まず第一に、とにかく小山田さんが信じられないくらいエネルギッシュな人なのです。
こりゃ、負けてられないぞって気持ちになるんです。
題名の「あの一瞬」とは旅に出るときに、家の扉を開け放って出て行く瞬間のことだそう。
小山田さんは本当によく旅に出かける人だったのです。
暇を見つけてはふらっと旅に出かける。
小山田さんの言う、「あの一瞬」が愛おしいのはすごくよくわかります。
旅に出るのに必要最低限なものだけ最後に確認して扉を開ける。
ついさっき最終チェックをしたとしても携帯と財布だけ確認したら扉を開ける。
僕の場合は「よっし!」っと飛び出します。
たしかにあの瞬間は大好きです。旅の始まりだから。
あの瞬間から日常からの逃避行がスタートするのです。
誰も自分を知らない街に行ける。
見たことのないものを見ることができる。
巻末には彼女の略年譜が載っていますが、世界中の色んな所に行っています。
当時はLCCがなかったので、金銭的に今ほど気軽に海外に行けなかったはずなんですが、彼女は持ち前のバイタリティーで解決しちゃいます。
バイトをしまくるのです。
「バイト三つ掛け持ちは当たり前」みたいな感じなんです。
決して休学していたり、勉学を疎かにしているわけではありません。
レポートにも追われつつ、飲食や家庭教師、大学のTA、さらにはネット広告会社でのアルバイト等をこなしていました。
パワフルすぎる。
旅とバイトだけではありません。
音楽サークル、テニスサークル、映画製作、自動車免許取得、雑誌のモデル、写真個展開催、...etc。
もちろん恋愛も。
僕は小山田さんの凄まじさに圧倒されるとともに、自分の状況を鑑みて恥ずかしくなりました。
「俺は何をやっているんだ」と怒りさえ湧いてくるほど。
第二に、彼女が同じ大学生と思えないほど、自分の考えをしっかりと持っていたことに刺激を受けました。
「BVJルーブルにて」というシリーズがあるのですが、本当に驚きます。
シリア滞在中のユースホステルでの一幕を記したものです。
同時多発テロから2年の時が経ち、中東問題が今よりも更に緊迫していた頃です。
この時期にシリアに出かけていたということにまず驚きました。
部屋には小山田さんとドイツ人、アメリカ人、イスラエル人、トルコ人、そしてフランス人が居ました。
多国籍。
中東問題や第二次世界大戦の話をそれぞれの国の目線で話し合います。
難しい議題ですが、当然英語で会話が交わされたわけです。
旅行やホームステイで英会話に慣れているとはいっても、自信をもって自分の意見を英語で言えることに驚きました。
それぞれの国のセンシティブな関係を気にした議論ではなく、気持ちを包み隠さないストレートかつ、なかなかに激しい議論でした。
海外では思ったことは口にするのはやはり当たり前のようで、僕は面食らいましたが、小山田さんはものともせず、その会話にきちんと参加していました。
時にはジョークすら言えてしまう小山田さんのコミュ力には驚くばかりです。
他にも彼女の色んな事に対する考え方がこの本には記されているのですが、僕の好きな所を二つ引用します。
ある人が何かを本気でやりたいと思ったとき、その人以外の誰も、それを制止できる完璧に正当な理由など持ち得ない。そんなの、ありえない。
- 「SORASO」より 海鳥社『えいやっ!っと飛び出すあの瞬間を愛してる。』小山田咲子著
彼女の行動力の源を感じる二文でした。
「やると決めたら絶対やる」って人だったんだろうな、と。
「どうしてわかってくれないの」という問い自体が無意味だということは、人と人とが所詮異なる存在同士で、そもそもお互いの気持ちを完全に理解し合えるはずなどないという基本的な前提に立ち返ればすぐにわかるはずなのだが、なまじっか相手の中に、ほかの誰とも違う(ような気のする)何かを見出してしまって、自分の中にも特別な場所を用意してしまうために悲劇は始まるらしい。真剣に向き合おうとするほど途方に暮れる羽目になる。
だけど冷静さの欠如していない恋愛なんてもはや恋愛じゃない気もするので、仕方ないのだろう。ただの友達でいられればこんなにがんばらない。
熱病みたいな磁気を過ぎたらあとは頭脳戦だし、耐久戦だ。一進一退の攻防、生き抜くには体力が必要だ。
彼女の人との向き合い方や恋愛哲学のようなものが大好きです。
客観的かつ情熱的。
他にも、「恋をして」や「明け方の訪問者」が大好きです。
第三のポイントは、小山田壮平さんが本に登場するところです。
そもそもこの本を知ったのは、彼女の弟である小山田壮平さんを通じてです。
そしてこの本には、壮平さんも出てきます。
お姉さんの眼に映る壮平さんは、僕が持つ壮平さんに対するイメージとはかなり違っていました。
もう何年も前の話だし、家族の目線なので当たり前ですが。
ファンからしたらこういう話を知るのは、やっぱり楽しいと思います。
andymoriや壮平さんのファンは必見です。
このブログはアルゼンチンへの旅行出発の前日を最期に突然終わってしまいます。
旅先での自動車事故で亡くなってしまったのです。
彼女の書いた本を読んでみたかった。
彼女の個展に行ってみたかった。
旅行記も読んでみたかったです。
もう何年も前のことですが、ご冥福をお祈りします。
赤の他人の僕が言うことではないのは重々承知の上だけれども、お姉さんが今でも何処かから壮平さんを見てくれているといいなぁ。
お姉さんが気にかけていた壮平さんはもう何にも心配は要らない、人に力を与えてくれる優しくて強い人になっています。
弾き語りツアーでは身体に秘めたエネルギーを爆発させて、僕にはもう、眩いくらいに輝く壮平さんを見せてくれます。
少なくとも僕は壮平さんに人生の最も辛い時期を救ってもらいました。
今も時々助けてもらってます。
以上が僕がこの本を大好きである三つの理由です。
小山田咲子さんの魅力はここでは語りきれません。
こんなに魅力溢れる人を僕は知りません。
amazon で購入できるので気になった方は是非。